お悩みサロン sukimaru

アロマアセクのカミングアウト

有名アーティストのカミングアウトで考えたこと

 2023年7月26日、音楽グループ『AAA(トリプルエー)』の與 真司郎(あたえ・しんじろう)さんが、自身がゲイであることをカミングアウトしたというニュースが、発表当日にSNSで流れてきました。

https://www.asahi.com/articles/ASR7V6RQKR7VUTFL008.html

常日頃、メディアを見ていると、「好みの異性のタイプは?」「どんなことをされたら好きになる?」など、出演者が異性愛者であることが当たり前であるかのような会話を、よく見かけます。

そういった会話を見かける度に「この質問をしている人たちは、性的指向に悩むことがなかったのかな。羨ましい」と思う気持ちと、その想像力のなさにげんなりする気持ちが同時に湧いてきます。

また、勝手にげんなりしてしまう自分に対して、「その人にとって身近でない問題について、関心を持ち、知識をつけろと責めるような思考になっているな。いかんいかん」という反省もします。

私の周りを見る限り、数としては、世間が言うほどセクシャルマイノリティは”マイノリティ”ではないのでは?とも思うのですが、やはり明確に伝えない限り、基本は異性愛者扱いが当たり前のようです。

近年、同性愛者やバイセクシャルであることを公表する人は、以前よりも増えてきました。

しかし、Aro/Ace (アロマンティック / アセクシャルに限らず、そのスペクトラムも含む総称) に関しては、ネットでは活動している方はよく見かけるものの、実名や顔出しの方、リアルで公表している方はまだまだ少ないのかなと思います。

特にアロマンティック アセクシャルは、 “ない” ことを証明しなくてはならないので、カミングアウトのハードルも高いのかもしれません。

カミングアウトにまつわる話をSNSや記事で詳しく公開している人も、ほとんど見かけないように感じます。

という訳で、前置きが随分長くなりましたが、今回は私がカミングアウトする時に気をつけていることを記事としてまとめてみます。

あくまで個人の経験や意見であり、絶対守らなければいけないということはないので、ご参考までに。

カミングアウトで気を付けていること

私がアロマンティック アセクシャルをカミングアウトする際に気をつけていることは、以下の5つです。

①わかりやすい言葉を使う
②例え話をする
③カミングアウトする相手や場面を選ぶ
④相手に理解することを強要しない
⑤他のセクシャリティを否定しない

①わかりやすい言葉を使う

 皆さんは、他人から自分が全く知らない事柄について説明された時、馴染みのない専門用語を使われて、相手の話を聞く気力を失ってしまったことはないでしょうか?

これは、セクシャリティのカミングアウトにも通ずる話だと思います。

そこまでの話の流れがあったとしても、いきなり「私は、アロマンティック アセクシャルなんです」と言われたら、「それは一体何なの?」とポカーンとしてしまう人がほとんどでしょう。

相手に何かを知ってほしい・理解してほしい時は、わかりやすい言葉を使うことが大切です。

私自身は「自分の時間を割いてまで、恋人として付き合たいと思える人が居ませんでした」「他人に対して、『この人と”そういうこと”をしたい』という感情を抱いたことがありません」という風に伝えることが多いです。

なぜ ”恋愛感情” や ”性的欲求”という言葉を使わないかというと、恋愛感情や性的欲求の定義は、人によってばらつきがあるからです。自分の気持ちをより正確にわかりやすく伝えられる言葉は何か、時間がある時に考えてみるのも良いかもしれませんね。

②例え話をする

 自身がアロマンティック アセクシャルであることを伝える際に、よく「釣り」に例えて話します。
なぜ「釣り」かというと、
・釣りは恋愛と似ている部分がある
・認知度は高いが、実際に興味があって趣味にしている人が、意外と周囲に居ない (釣り好きの方、本当にごめんなさい……)
という2つの理由で、例え話にうってつけだからです。

釣りを使ってアロマンティック アセクシャルを説明する時、私は以下のように伝えることが多いです。

釣り好きの方は嫌な内容だと思うので、ここで引き返してください……

ちなみに私はこの例え話をする時に、その場に釣り好きの人が居ないかを確認してから、話すようにしています。

―――――――――――――――――
私にとって、恋愛は釣りみたいな感じなんです。

もし世間の人の大半が釣りをする世界で、釣りをしない貴方に対して「釣りをしないなんて、おかしい! どうかしてるよ! 」「人として大事な何かが欠けている」と言われたら、嫌な気持ちになりませんか?

別に義務でもない、それぞれがやりたくてやっていることなのに。

私にとっては、それが恋愛なんです。

「良い相手と出会うために、もっと女性らしいお洒落や振る舞いをしなきゃダメだよ」「好きな人ができたら、きっと変わるよ」「恋愛している時が一番楽しいよ」「とりあえず誰かと付き合ってみたら?」

こういう風に言われることが多いんですけど、私にはこう聞こえています。

「良い魚を釣るために、立派な釣竿を買わなきゃダメだよ」「釣りたいと思う魚ができたら、きっと変わるよ」「釣りをしている時が一番楽しいよ」「興味が無くても、とりあえず1回釣りをしてみたら?」

いや、だから釣りをしたいと思ってないって言ってんじゃん??ってなりませんか?

私はずっと「やりたいと思っていない趣味を、たくさんの人から強引にオススメされ続けている」ような気持ちなんです。

―――――――――――――――――

もちろん毎回この尺をそのまま話すと長いですし、押し付けがましく感じる人も居るので、一部分だけ話したり、相手がわかりづらそうにしているな?という時だけ話したり、工夫は色々しています。

当事者ではない方から「釣りの話がすごくわかりやすかった!」という感想をいただいたこともあるので、もしよければ皆さんもカミングアウトの際に使ってみてください。

グレロマ/セク、デミロマ/セクの方は、ご自分の程度に合わせて調整しないと、使いにくいかもしれませんが……

釣り好きの方には「釣りを否定している訳ではないですよ!」ということを、しっかりとお伝えください。

③カミングアウトする相手や場面を選ぶ

 自分のセクシャリティを知ってほしいからといって、むやみにカミングアウトすることはオススメしません。

世の中には、意図せず差別発言をする人がいくらでも居ます。

そういう人にまで真正面から向き合って、自分の傷口を広げたり増やしたりする義理はありません。

ご自分の心の安全を第一に考えて、相手を選びましょう。

「あ~、あんまり恋愛興味なくてw」くらいで軽くジャブを打って反応を見てみて、まずそうだったらサッとその話題は引っ込めた方が、心の傷が浅く済みます。

また、セクシャリティが関係ない場面でセクシャリティの話をするのは、あまりオススメしません。

話された側からすると「急に何!?」と驚きますし、恋人が関係ない場で「私の恋人が~」と話し始める人を見ると「急に何!?」となるのと同じですので、話す場面は気をつけましょう。

④相手に理解することを強要しない

 同じ人間といえど、やはり生まれ持った感覚の違いというものがありますので、いくら言葉を尽くしても伝わらないこともあります。理解するのに時間を要する人も居ます。

「どうしてわかってくれないの?」と詰め寄ると、相手は心を閉ざしてしまいます。

「あの人たち、100%理解しないと怒るから……」と、セクシャルマイノリティに対する嫌悪感にも繋がるかもしれません。

今日はこれ以上話してもどうにもならないかもなという時は、「聞いてくれてありがとう」という感謝を伝えて締めるのが無難なのではと思います。

急がば回れの精神で、ゆっくりと「そういうものなのね」と思ってもらえるところまで行ければ、私としては大成功です。

人によっては、私の対応を「マジョリティに遠慮し過ぎ」と感じるかもしれません。

カミングアウトをマジョリティ 対 マイノリティの構図で捉えるとそう感じるかもしれませんが、私はカミングアウトも 1 対 1のコミュニケーションの一つであると考えているので、コミュニケーションのマナーを抑えるのは当然だと考えています。

⑤他のセクシャリティを否定しない

 世間の大半の人々が アロマンティック アセクシャル の感覚を自分事として理解できないように、私も他者への恋愛感情や性的欲求を抱くという感覚を自分事として理解することは難しいです。

だからといって、カミングアウトの際に「性的な接触とか絶対無理。なんであんなことしたいと思うの?」「ときめきとかがわからなくて。脳のバグでしょ?」なーんて、他のセクシャリティを否定するようなことを言いはしません。理由は明確。相手が不愉快に思うからです。

人間は、不愉快なことを言ってくる相手のことを理解しようと思えるほど、できた生き物ではありません。

アロマンティック アセクシャルの当事者しか居ない場面なら、思う存分話せるかもしれませんが、非当事者とのコミュニケーションや、カミングアウトの場面では避けた方が良いでしょう。

カミングアウトもコミュニケーションである

 ここまで、私が自分のセクシャリティをカミングアウトする上で、実際に気を付けていることをまとめてみました。この記事が少しでもみなさんの参考になれば嬉しいです。

途中にも書きましたが、忘れて欲しくないので、改めて書きます。

カミングアウトはコミュニケーションの一つだと、私は思っています。

普段のコミュニケーションと同じように、自分の「伝えたい!」という気持ちだけを押し付けることなく、聞く側の気持ちを考えながら、どんな言葉で伝えれば良いかを考えながら話してみましょう。

それでは、また。野間口でした。

メディアの力

 余談ですが、やはりメディアの力は偉大だなと感じることがあったので、書いておきます。

私は母と姉にカミングアウト済みなのですが、2人は人並みに恋愛体質かつイケメン好きな人達なので、それこそ「そういうものなのね」と思ってはくれたものの、100%伝わった感触はありませんでした。

しかし、ある日姉から「ドラマを見ていたら、理子の気持ちがよくわかった。今までごめんね」と謝られました。

姉が観たのは『今夜すきやきだよ』というドラマ。

谷口奈津子さんの同タイトルの漫画を実写ドラマ化した作品です。

私のカミングアウトという下地があったからこそ、このドラマに対して感じるものがあったと思いたいのですが(笑)、メディアの力のおかげで、姉のアロマンティックへの解像度はかなり高まったようです。

それぞれ恋愛体質とアロマンティックであるアラサー女性2人の同居生活のお話なのですが、とても丁寧に作られた作品ですので、当事者の方にもオススメです。

カミングアウトしようかなと思っている相手の近くで、このドラマを見てみるという手も有効かもしれませんね。

↓ドラマはこちら (Hulu / Paravi / U-NEXTでも視聴可能)
https://www.telasa.jp/series/13429

↓漫画はこちら



Facebook
Twitter

送信完了しました

お問い合わせありがとうございます。
入力いただいたアドレス宛てに24時間以内に返信いたしますので、回答までお待ちくださいませ。